2025/02/16

**1章:恋に落ちたあの日**
春の終わり、大学の図書館で初めて出会った。
遥と奏は、偶然同じ本に手を伸ばし、指先がかすかに触れた。
「どうぞ。」奏が微笑む。
「いえ、あなたが先に。」遥も微笑んだ。
それが二人の恋の始まりだった。
読書好きな奏と、好奇心旺盛な遥はすぐに意気投合した。
何気ない日々が、特別な時間に変わっていく。
カフェで語り合い、夜の公園で未来を描いた。
二人は確かに、互いに惹かれ合い、そして愛していた。
—
**2章:突然の別れ**
しかし、幸せは永遠ではなかった。
奏は突然、海外留学の話を持ちかける。
「君のことは大切。でも、自分の夢を追いたいんだ。」
遥は沈黙した。彼女も奏の夢を応援したい。
けれど、それは二人の未来から彼を遠ざける選択だった。
「行って。あなたの人生を歩んで。」遥は涙をこらえて言った。
奏は彼女を強く抱きしめた。そして、その手を離した。
こうして二人の時間は止まった。
—
**3章:新しい出会い**
数年後。遥は社会人となり、仕事に没頭する日々を過ごしていた。
恋愛は過去のものとなり、心の奥に奏の存在を封じ込めた。
そんなある日、彼女は偶然、一人の男性と出会った。
彼の名前は悠斗。遥とは同じ職場で働く同僚だった。
「よかったら、一緒にランチしない?」悠斗は気さくな笑顔を向けた。
遥は戸惑いながらも、彼と過ごす時間が心地よいことに気づいていく。
悠斗の優しさが、奏との記憶を少しずつ塗り替えていく。
過去は過去。遥は、前を向こうとしていた。
—
**4章:運命の再会**
ある雨の日。遥は駅前のカフェに立ち寄った。
窓際の席に座り、ふと外を見た瞬間、彼女の時間が止まる。
そこにいたのは——奏だった。
「……久しぶりだね。」奏が静かに言った。
遥は息をのむ。彼の声、雰囲気、すべてが懐かしい。
しかし、二人の間にはもう以前の距離感はなかった。
「元気そうでよかった。」奏が微笑む。
「あなたも。」遥は言葉を探しながら答えた。
二人はあの時とは違う人生を歩んでいた。
しかし、この再会が何かを変えるかもしれない——。
**5章:揺れる心**
カフェの窓から外を眺める奏。
遥は静かに息を整えながら、席に座る。
「この街に戻ってきたの?」
「うん、仕事で日本に帰ることになってね。」奏が微笑む。
一度は途切れた二人の時間が、再び動き出そうとしていた。
遥の胸には、懐かしさと戸惑いが混ざり合っていた。
「……変わったね。」奏がふと呟いた。
遥は少し笑って答える。
「そう?あなたも、すっかり大人になったじゃない。」
彼はコーヒーを一口飲み、遥を見つめる。
「昔のこと……後悔したこと、ある?」
遥は目を伏せる。
後悔——それは確かにあった。
でも、それはもう過去のことだった。
「後悔はないよ。」遥は真剣な瞳で奏を見つめた。
「あなたも……今の人生に満足している?」
奏は少し間を置いて、ゆっくりと頷く。
「満足している……でも、やっぱり君のことは、時々思い出すんだ。」
遥の心が静かに揺れた。
悠斗との時間、そして奏との記憶。
二つの想いが交差し、彼女の心を締め付けた。
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**6章:選択の時**
その夜、遥は悠斗と食事をしていた。
彼の温かい眼差しが、遥の揺れる心を見抜いたのかもしれない。
「何かあった?」悠斗が優しく聞く。
「……昔の恋人と、偶然再会したの。」遥は正直に話した。
「そっか……それは、複雑な気持ちになるね。」
悠斗は何も責めなかった。ただ、遥の言葉を受け止めてくれた。
「君がどうしたいか、それが一番大切だよ。」
遥は戸惑いながらも、改めて自分の気持ちに向き合った。
過去の愛に戻るべきか、今の愛を信じるべきか。
答えはまだ出ない。
しかし、選ばなければならない時はすぐに来る。
**7章:答えの出る夜**
夜の街を歩きながら、遥は深く息を吸った。
選ばなければならない——悠斗との穏やかな未来か、奏との再び交わる運命か。
悠斗は優しくて、大切な存在になっていた。
彼と過ごした時間は心地よく、安心感に満ちていた。
しかし、奏と再会したことで、心の奥にしまっていた感情が揺らぎ始めていた。
「奏とまたやり直したいの?」
悠斗の言葉が、遥の心に真っ直ぐに響く。
彼は静かに微笑みながら、彼女の目を見つめていた。
「私は……」
答えを出そうとした瞬間、スマートフォンが震えた。
奏からのメッセージだった。
『明日、少しだけ時間をもらえないか?最後に話したいことがある。』
最後に——その言葉が、遥の胸を締めつける。
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**8章:交差する運命**
翌日、遥は奏と公園で待ち合わせた。
木々の間から柔らかな光が差し込み、春の風がそっと二人を包んだ。
「昨日のメッセージ……最後ってどういう意味?」
遥が問いかけると、奏は少し微笑んだ。
「俺は、君を今でも大切に思ってる。でも、それは過去の想いなのかもしれない。」
遥は息をのむ。
「俺は海外でたくさんのことを学んだ。でも、一番学んだことは、時間は戻らないってことだ。」
奏は静かに言葉を続ける。
「だから……俺は君にもう一度言いたかった。ありがとうって。」
遥の胸が熱くなる。
奏はゆっくりと立ち上がり、彼女に微笑んだ。
「君が幸せなら、それが一番だから。」
遥は涙をこらえながら微笑んだ。
「ありがとう、奏。」
こうして二人は、もう一度別れを選んだ。
しかし、それは悲しい終わりではなく、それぞれの新しい未来への一歩だった。
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**9章:新たな始まり**
夜の街を歩きながら、遥は悠斗と並んでいた。
彼は何も聞かず、ただ隣にいてくれた。
「私は……未来を進みたい。」遥は静かに言った。
「そっか。じゃあ、一緒に歩こうか。」悠斗は微笑んだ。
遥は頷いた。
時計の針は再び動き始める。
過去の恋は、遥の心に優しく残りながら、彼女を前へ進ませる力となった。
そして、新しい愛の物語が、ここから始まる——。