2025/02/16

**第一章 幼馴染という距離**
「いつか、大人になったらさ…」
夏の終わり、川沿いの道を並んで歩く陽向と優奈。
二人は幼馴染だった。
「何?」
「うーん、なんとなく、ここにまた戻ってくる気がするんだよね」
陽向は空を見上げながら言った。
「そっか。それなら、私も戻ってこようかな」
優奈は軽く笑った。だが、それが幼馴染として過ごした最後の夏だった。
高校を卒業し、それぞれの道を歩んでいく。
陽向は東京の大学へ進学し、優奈は地元で働くことを選んだ。
日常は変わり、会う時間は減っていく。
「また会えるよね」
そんな言葉を交わしながらも、次第に距離ができていった。
**第二章 すれ違う時間**
五年後。
陽向は仕事の関係で地元に帰ってきた。
「もう随分経つな…」
駅を降りた瞬間、懐かしい風景が広がる。
そして、優奈のことを思い出した。
だが、その頃の優奈はすでに地元での生活に馴染み、新しい仲間に囲まれていた。
「陽向、久しぶり」
再会したとき、優奈は優しく微笑んだ。だが、どこかぎこちなかった。
陽向は気付いていた。
幼馴染としての関係は変わってしまっているのかもしれない、と。
**第三章 思い出の場所**
ある日、陽向は川沿いの道へ向かった。
「結局、戻ってきたな…」
懐かしさに浸っていると、後ろから足音が聞こえた。
「やっぱり、ここにいると思った」
振り向くと、優奈がいた。
「なんで?」
「昔、そう言ってたじゃん。『大人になったら戻ってくる気がする』って」
陽向は驚いた。
忘れていたような幼い日の言葉を、優奈は覚えていたのだ。
「今はどう?戻ってきて、何か変わった?」
優奈の問いに、陽向はしばらく考えた。
「昔はここに来ると、お前と一緒だった。だから、懐かしいって思うのは…結局、お前と過ごした時間なんだなって」
その瞬間、優奈の目がわずかに揺れた。
そして、小さくつぶやくように言った。
「…私も、そうだった」
**第四章 幼馴染じゃなくなる日**
それから少しずつ、二人はまた近づいていった。
昔話をしながら笑い合い、何気ない会話を楽しむ。
けれど、心の奥で陽向は気付いていた。
「幼馴染」のままではいられない、と。
そして、ある夕暮れ。
「陽向、私ね…」
優奈が何か言おうとした瞬間、陽向は言葉を遮るように優奈の手を握った。
「もう、『幼馴染』って呼びたくない」
優奈は驚いた顔をした。
陽向はそのまま続ける。
「お前は、俺にとって…もうそれ以上の存在だから」
長い時間を経て、幼馴染という関係が変わる瞬間だった。
優奈は静かに微笑み、陽向の手を握り返した。
「私も…そう思ってた」
そして、ふたりは幼馴染ではなく、「恋人」になった。