2025/02/16

桜の舞う春の午後、透(とおる)は小さな雑貨屋の前で足を止めた。
ショーウィンドウに並んでいたのは、カラフルなキャンディーたち。淡いピンク、鮮やかなブルー、透き通るオレンジ——まるで小さな宝石のようだった。
「懐かしいな……」
子どもの頃、好きだったキャンディー。甘い味が舌に広がるたびに、幸せな気分になれた。そんな思い出を胸に、透は店のドアを開いた。
「いらっしゃいませ!」
柔らかな声に顔を上げると、そこには優しい笑顔の店員、千佳(ちか)がいた。
「キャンディー、お好きなんですか?」
「ええ、小さい頃から。ここにこんな素敵なお店があるなんて知らなかったな」
千佳は嬉しそうに微笑んだ。
「キャンディーって不思議ですよね。小さなひとかけらで、人の心を甘く、優しくしてくれるんです」
その言葉に、透はふと千佳の指先を見た。彼女の手は、毎日キャンディーを包んできたのだろう、優しく、温かかった。
透は迷いながらも、一粒のキャンディーを手に取った。
「この味、懐かしいな……昔、好きだったんです」
「よかったら、試食してみますか?」
千佳が差し出したキャンディーを口に入れると、甘さと共に、幼い頃の記憶がふわりと蘇った。
そして、その瞬間、透は気づいた。
この甘さは、キャンディーだけじゃない。
千佳の柔らかな微笑み、彼女の優しさ、そのすべてが心を甘く満たしていたのだった。
透はそっと、もう一粒のキャンディーを手に取りながら、言葉を口にした。
「また来てもいいですか?」
千佳は嬉しそうにうなずいた。
「もちろん。キャンディーが好きな人は、いつでも大歓迎です」
キャンディーのように、ゆっくりと溶けて広がる甘い気持ち。
透の心には、静かに始まった小さな恋が宿っていた——。