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【深夜の足音】短編小説

time 2025/03/08

『深夜の足音』

深夜2時、俺はアパートの狭い部屋でレポートを仕上げていた。大学提出期限が迫っていて、眠気と戦いながらキーボードを叩く。外は静かで、時折遠くの車の音が聞こえるだけだ。

カタカタ…カタカタ…。俺のタイピングの音に混じって、何か別の音が聞こえた。トン…トン…。ゆっくりとした足音。隣の部屋からだ。このアパートは壁が薄いから、隣の住人の動きがよく聞こえる。でも、隣は空き部屋のはずだ。去年、前の住人が引っ越して以来、誰も入っていない。

トン…トン…。足音が近づいてくる。俺の部屋の壁に沿って移動しているみたいだ。思わず手を止めて耳を澄ます。トン…トン…。ドアの前で止まった。息を殺して見つめる。ドアノブが微かに揺れた気がした。でも、鍵はかけてある。大丈夫だ、気のせいだ。そう自分に言い聞かせた。

しばらくして足音が遠ざかり、静寂が戻った。俺は安堵してレポートに戻った。カタカタ…カタカタ…。すると、まただ。トン…トン…。今度は部屋の中だ。背筋が凍った。振り返る勇気はない。首だけ動かして横目で確認すると、暗い部屋の隅に何か立っている。白い服を着た女。長い髪が顔を隠していて、表情は見えない。トン…トン…。近づいてくる。足音が俺のすぐ後ろで止まった。冷たい息が首筋にかかる。「見てるよ…」掠れた声が耳元で囁いた。

次の瞬間、電気がパチンと消え、真っ暗になった。俺は叫び声を上げて椅子から転げ落ちた。どれくらい時間が経ったかわからない。気づくと朝で、部屋は明るかった。レポートは完成していた。俺の字じゃない、乱れた字で書かれた一文が最後につけ加えられていた。「次はお前がここにいる番だ」

それから毎夜、足音が聞こえる。ドアの外じゃなく、俺の部屋の中で。

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