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【非常階段から始めよう】短編小説

time 2025/06/02

【非常階段から始めよう】短編小説

**第一章 出会いの場所**

そのビルの非常階段は、人目を避けた静かな場所だった。
高層ビルの10階にある、少し錆びた階段。都会の喧騒が遠くに聞こえ、風が優しく頬を撫でる。

「ここ、誰も来ないんだね」

菜月は手すりにもたれながら言った。対面するように立っている佑真は、手元のコーヒーを見つめたままうなずいた。

「…昔、ここで待ってた人がいたんだ」

その言葉に、菜月は気になりながらも、何も聞かずにいた。

ふたりは偶然、職場の休憩時間が重なり、いつしかこの非常階段で会うようになった。仕事の合間の短い時間、ただぼんやりと過ごす場所。

だが、菜月は気づいていた。
佑真の瞳の奥には、まだ誰かの影があることを。

**第二章 忘れられない人**

「佑真って、いつも誰かを待ってるみたい」

ある日、菜月は思い切って聞いた。佑真は少し驚いたように彼女を見つめたが、やがて苦笑した。

「…昔、ここで待ってた人がいたんだよ。でも、もう来ない」

佑真の言葉の中に、消えない未練があることは明らかだった。

「好きだったんだね、その人のこと」

菜月は微笑みながら言った。佑真は何も言わず、ただ静かにコーヒーをすする。

それでも、菜月は諦めなかった。佑真にとって、この非常階段が「過去の場所」ではなく「新しい場所」になるように——。

**第三章 変わる時間**

それから、ふたりの時間は少しずつ変わっていった。

佑真は以前よりも菜月に視線を向けるようになり、彼女の話をよく聞くようになった。菜月はいつも明るく、時に無邪気で、けれど優しさのある人だった。

「今日は寒いね」
「うん。でもこの風、気持ちいい」

ささいな会話が、心地よく積み重なる。

ある日、菜月が非常階段に向かうと、すでに佑真がいた。

「先に来てたの?」

「…なんとなく、ここで待ちたくなった」

その言葉を聞いたとき、菜月の胸が温かくなった。佑真の「待つ理由」が、変わり始めているのを感じたから。

**第四章 新しい気持ち**

「佑真は、今誰を待ってるの?」

ある日、菜月はふと尋ねた。

佑真はしばらく黙った後、ふっと笑った。

「菜月…かもしれない」

その答えに、彼女の心臓が跳ねる。

「だったら、毎日待たせちゃダメだね」

菜月はいたずらっぽく微笑み、佑真の手にそっと触れた。

それは、過去から続いていた時間の終わりであり、そして新しい始まりだった。

**第五章 結ばれる場所**

数ヵ月後、佑真は非常階段で菜月を待っていた。

今日は、特別な日だった。

階段の錆びた手すりに寄りかかりながら、菜月は息を整え、佑真の前に立つ。

「私、ここが好き」

「俺も…今は、そう思える」

佑真の手が菜月の手をしっかりと握る。

非常階段——かつて佑真にとっては「過去を待つ場所」だった。
けれど今は、「未来へ進む場所」になった。

そしてその未来には、菜月がいた。

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