2025/02/16

**第一章 教会の鐘の下で**
静寂に包まれた教会の庭。
緑豊かな木々の間から漏れる柔らかな光が、石畳に優しく降り注いでいた。
夏希(なつき)は教会の扉を押し開けながら、ゆっくりと足を踏み入れる。
「……久しぶりだな」
彼女の視線の先には、美しいステンドグラスが広がっていた。
礼拝堂の奥では、司祭の話を聞いている人々が静かに座っている。
しかし、夏希の目は、その中のひとりの青年に釘付けになった。
黒いスーツに身を包み、穏やかな笑みをたたえる蓮(れん)。
彼とは幼い頃、この教会で何度か顔を合わせたことがあった。
そして、こうして再会するのは何年ぶりだろう——。
—
**第二章 再会の予感**
礼拝が終わり、夏希はそっと蓮に声をかける。
「……蓮くん?覚えてる?」
驚いたように振り向いた蓮は、一瞬目を丸くしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「もちろん。夏希……久しぶりだね」
懐かしさと少しの照れくささが入り混じる空気の中、二人はゆっくりと言葉を交わす。
「昔、ここでよく遊んだよね」
「うん。でも、ずっと来てなかった……」
蓮の言葉には、少しの寂しさが混じっていた。
「私も。今日、ふと思い出して来てみたんだ」
そんな会話を交わしながら、二人は教会の庭へと歩みを進めた。
そして、その日が終わる頃には、ふたりの間にかすかな期待が芽生えていた——。
—
**第三章 交わる運命**
それから数週間後、夏希は定期的に教会へ足を運ぶようになった。
蓮もまた、礼拝のあとに彼女と話す時間を楽しんでいた。
「蓮くん、ここにいると落ち着く?」
「うん。ここには、何か特別なものがある気がするんだ」
夏希はその言葉を聞きながら、ふと自分の心の奥を探る。
この場所に来るたびに感じる安心感。
そして、それが蓮とともに過ごす時間だからこそ、もっと特別に思える——。
しかし、そんな穏やかな日々の中で、夏希はあることに気づいてしまう。
「蓮くん……遠くへ行くの?」
ある日、彼が静かに言った言葉は、彼女の心を大きく揺らした。
「実は、海外の神学校へ行くことになってる」
教会の静けさの中、夏希は言葉を失った。
この時間が永遠に続くわけではないことを、痛感した瞬間だった。
—
**第四章 別れの夜**
蓮の旅立ちの日は近づいていた。
夏希は、最後に彼と過ごす時間を大切にしたいと願っていた。
「行っちゃうんだね……」
夕暮れの教会の前で、夏希はぽつりと呟いた。
「うん。でも、この場所が俺の原点だから、必ず戻ってくる」
蓮の言葉には、静かな決意が込められていた。
夏希はその言葉を信じたかった。
「それなら……私はここで待ってる」
彼女の目には、涙が光っていた。
しかし、それは悲しみではなく、新しい希望の証だった。
—
**第五章 聖なる誓い**
それから一年後。
教会の扉が静かに開かれた。
「……夏希?」
振り向いた先には、懐かしい姿が立っていた。
「蓮くん……!」
彼は約束通り戻ってきた。
「待ってくれてたんだね」
夏希はそっと微笑む。
「うん。ずっと、教会の灯りの下で」
蓮は静かに彼女の手を取る。
「もう、離れないよ。ずっと一緒にいてほしい」
夏希はその言葉を聞きながら、ゆっくりと頷いた。
そして、教会の鐘が優しく響き渡る。
それは、ふたりの未来を祝福する音だった——。